【特許】分割出願を外国語書面出願で行う方法

1.課題(通常の分割出願では誤訳訂正できない)

 PCT国際出願(日本語以外の言語)を日本国内に移行した出願や、外国語書面出願で日本語明細書を提出した出願では、PCT国際出願や外国語書面出願に基づいた誤訳訂正という手続を行うことができます。
この誤訳訂正は、その名のとおり、日本語明細書に誤訳があった場合に、それを修正することができる有効な手続(手段)です。
 しかしながら、この日本語明細書に基づいて通常の分割出願(以下、子出願とも言います)をした場合には、PCT国際出願や外国語書面出願(以下、親出願とも言います)に基づく誤訳訂正の手続が行えないため、保険がかけられませんから、問題となります。

2.解決手段とその効果

 このような場合には、子出願も「外国語書面出願」で分割出願することにより、子出願でも誤訳訂正の機会を担保することが可能となります。
 具体的には、下記ような(1)~(4)のフローをとります:
(1)外国語書面出願で分割を行う(この際には、親出願で用いたものと同一の外国語明細書等を提出する)
  ※なお、出願分割の時期が「特許査定後30日以内」の場合には分割直前の親出願(日本語明細書)が基準となるため、分割で使用する外国語明細書はどうすればよいか、ということも問題となります。
   この制約は、あくまで日本語明細書にのみ課されるものであって、外国語明細書等に課せられるものではありませんので、親出願で用いたものと同一の外国語明細書等を提出する対応で問題ありません。
  ※外国語書面出願を行う際のフォーマット例(特に特記事項)を下記に示していますので参考としてください。
-----------------------------------------------------------------
【書類名】       特許願
【整理番号】      ●●●●●●●●●●
【特記事項】      特許法第36条の2第1項の規定による特許出願
            特許法第44条第1項の規定による特許出願
【提出日】       令和●●年●●月●●日
【あて先】       特許庁長官殿
【原出願の表示】
  【出願番号】    特願20XX-●●●●●●
  【出願日】     平成●●年●●月●●日
【発明者】
  【住所又は居所】  ●●●●●●●●●
  【氏名】      特許 太郎
【特許出願人】
  【識別番号】    ●●●●●●●●●
  【氏名又は名称】  特許 次郎
【代理人】
  【識別番号】    ●●●●●●●●●
  【弁理士】
  【氏名又は名称】  ●●●●●
【手数料の表示】
  【予納台帳番号】  ●●●●●●
  【納付金額】    22000
【提出物件の目録】
  【物件名】     外国語明細書 1
  【物件名】     外国語特許請求の範囲 1
  【物件名】     外国語要約書 1
  【物件名】     外国語図面 1
-----------------------------------------------------------------

(2)子の外国語書面出願をした日から2ヶ月以内に日本語の翻訳文(日本語明細書等)を提出する(特許法第36条の2第2項)
  ※なお、子の分割出願日が親の出願日から3年以上経過している場合には、子の出願日から30日以内に審査請求をせねばなりません(特許法第48条の3第2項)。審査請求は「子の日本語明細書等」を基準として行われますから、このケースでは、「子の日本語明細書等」を子の外国語書面出願(分割出願)をした日から30日以内かつ審査請求前に提出する必要がありますから、注意してください。
  ※子の分割出願日が親の出願日から3年以内であって、
   (a)分割出願日から30日後の該当日が、親の出願日から3年以内に属する場合には当該3年が経過するその日が審査請求期限日となり、
   (b)分割出願日から30日後の該当日が、親の出願日から3年以内に属しない場合には分割出願日から30日後が審査請求期限日となります。
  ※期間の計算方法はこちらの記事を参照ください。

(3)必要に応じて、子の日本語明細書、請求項、及び/又は図面の手続補正書も提出する
  ※通常の分割出願では、親出願の出願当初の範囲内又は分割直前の範囲内(特許査定されている場合)で、修正した明細書等をそのまま分割出願で使用します。
   しかしながら、外国語書面に基づいて分割出願した場合には、上記(2)で説明した子の外国語書面に基づく日本語明細書等を提出したときと同時又はその後に、親出願(日本語明細書)の出願当初の範囲内又は分割直前の範囲内(特許査定されている場合)で、修正した明細書等を手続補正書で更に提出します。
   子の審査では、この手続補正書の内容で分割出願の要件を充足しているか否かが判断されます(第 VII 部 第 1 章 外国語書面出願制度の概要、第 1 章 外国語書面出願制度の概要、6.1.3 審査における留意事項を参照されたい)。
  ※なお、上記(2)で説明しましたように、審査請求前に手続補正書を提出するよう注意してください。
  
(4)審査請求を法定期限内に行う
 詳細は、上記(2)及び(3)の※部分を参照ください。
 
 以上となりますが、子の外国語書面の分割は複雑ですので、弁理士等の専門家に委ねるのが好ましいかと思います。

この投稿へのコメント

  1. 石崎 said on 2022年12月8日 at 11:39 AM

    ※なお、出願分割の時期が「特許査定後30日以内」の場合には分割直前の親出願(日本語明細書)が基準となるため、分割で使用する外国語明細書はどうすればよいか、ということも問題となります。
       この制約は、あくまで日本語明細書にのみ課されるものであって、外国語明細書等に課せられるものではありませんので、親出願で用いたものと同一の外国語明細書等を提出する対応で問題ありません。

    との記載がありますが、この場合、外国語書面に基づいて誤訳訂正をした結果、分割直前の明細書(日本語明細書)の範囲を超えると分割要件違反になってしまうと思われます。
    そうすると、外国語書面で出願すること自体はできたとしても、外国語書面出願をする意味がないかと思いますがいかがでしょうか。

    • おりがみ国際特許事務所 said on 2022年12月9日 at 2:46 AM

      石崎様

       この度は弊所にご質問いただきありがとうございます。
       ご質問の件ですが、以下回答させていただきます。

      1.概論
       誤訳訂正書による補正は分割の要件において考慮されないため分割で外国語出願をする意味はある、という回答となります。
       以下、各論にて理由を述べます。
      2.各論
       審査基準「第VI 部 第1 章 第1 節 特許出願の分割の要件」では、「3.3 分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内であること(要件3)」と記載され、これが特許査定や拒絶査定との関係で、分割出願の明細書等の範囲が制限されることの根拠となります。
       ただし、当該要件3の判断は、「分割出願の明細書等が『原出願の分割直前の明細書等』に対する補正後の明細書等であると仮定した場合に、その補正が『原出願の分割直前の明細書等』との関係において、新規事項を追加する補正であるか否か」でなされます(同審査基準)。
       また、「新規事項を追加する補正であるか否か」の判断は、審査基準「第IV 部第2 章 新規事項を追加する補正」の特許法第17条の2第3項を根拠とするところ、誤訳訂正書による補正は新規事項の追加の判断において考慮されません(同項及びその括弧書)。
      3.まとめ
       したがって、誤訳訂正書による補正は分割の要件で考慮されないものであるため、分割直前の明細書等とみなされた翻訳文に誤訳がある場合に、それを修正する保険としての外国語書面での分割には意味がある、ということになります。

      参考:
      ・第VI部 第1章 第1節 特許出願の分割の要件
      https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/06_0101.pdf

      ・第VII部 第2章 外国語書面出願の審査
      https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/07_0200.pdf

      ・第IV部 第2章 新規事項を追加する補正
      https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/04_0200.pdf

      ・特許法第17条の2第3項
      「第一項の規定により明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、誤訳訂正書を提出してする場合を除き、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(第三十六条の二第二項の外国語書面出願にあつては、同条第八項の規定により明細書、特許請求の範囲及び図面とみなされた同条第二項に規定する外国語書面の翻訳文(誤訳訂正書を提出して明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあつては、翻訳文又は当該補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面)。第三十四条の二第一項及び第三十四条の三第一項において同じ。)に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」

      • 石崎 said on 2022年12月12日 at 1:25 PM

        早速のご回答ありがとうございます。

        考え方は理解しましたが、若干腑に落ちない点があります。

        外国語書面出願X(外国語書面G(A,B,C)、出願当初翻訳文H(A,B))において、外国語書面Gを根拠に翻訳文H(A,B)を翻訳文H1(A,B,C)とする誤訳訂正をした場合に、新規事項追加の判断がなされないというのは分かります。

        一方で、例えば以下の状況の場合:
        ●原出願X1
        外国語書面G1(A,B,C)
        分割直前の翻訳文H1(A,B)
        ●分割出願X2(特許査定後の分割)
        外国語書面G2(A,B,C)
        出願時の翻訳文H2(A,B)
        誤訳訂正後の翻訳文H2’ (A,B,C)

        分割要件の判断において、翻訳文H2’ (A,B,C)が翻訳文H1(A,B)に対する補正後の明細書等であると「仮定」するわけですが、補正前の明細書等たるH1(A,B)は外国語書面G2(A,B,C)の翻訳文ではありませんので、この「仮定」においてH2にCを追加してH2’とするのが誤訳訂正であるとするのは無理があるように思いました。
        言い換えれば、G2の翻訳文であるH2をH2’にする点では誤訳訂正に該当するので新規事項の追加にあたらないが、H1をH2’に補正するという仮定においてはH1とG2には法的な関係がないので、通常の手続補正の枠組みで判断されて新規事項の追加(すなわち分割要件違反)になるのではないかと思いました。

        • おりがみ国際特許事務所 said on 2022年12月12日 at 6:24 PM

          石崎様

           はい、分割出願X2についての考え方は石崎様のとおりかと思いますが、論点を整理するために場合分けで説明させていただきます。
           具体的には、「誤訳」とは、外国語書面と翻訳文との関係において一対一に文脈に沿って適正な日本語に翻訳されているはずの用語の誤記又は抜け、と考えられます。
           したがって、通常、「誤訳」における外国語書面と翻訳文との関係は下記の(1)ようになるかと思います。
           他方、石崎様に列挙いただいた想定は、下記の(2)の(2-1)及び(2-2)と場合分けされるものと思料します。

          (1)用語の「誤記」の場合
           ●分割出願X3(特許査定後の分割)
           外国語書面G3(A,B,C)
           出願時の翻訳文H3(A,B’)
           誤訳訂正後の翻訳文H3′ (A,B)
           ※「B’」が誤訳(誤記)で、「B」が正訳
           
          (2)用語の「抜け」の場合
           用語の抜けが「誤訳」なのか「新規事項」なのかについては、過去の経緯から判断されるものと思料します。
          (2-1)原出願(原翻訳)において意図しない脱落(抜け)が生じていた場合
           例えば、明細書の文章の一部が出願時の原翻訳から脱落しており、それが特許査定された後、分割出願で脱落に気付くような場面を想定します。
           そのような場合には、補正等により原翻訳から意図的に脱落させたものではないですから、「誤訳」であると主張することは十分可能と思料します。

          (2-2)原出願(原翻訳)において補正等により意図して脱落(抜け)が生じていた場合
           他方、明細書の文章の一部を補正により削除し、それが特許査定された後、分割出願で誤訳訂正書で復活させるような場面を想定します。
           そのような場合には、補正等により原翻訳から意図的に脱落(削除)させたものですから、分割出願における誤訳訂正だとしても「(翻訳文)新規事項」と判断される可能性が高いと思料します。
           
           なお、審査基準「第 VII 部 第 2 章 外国語書面出願の審査」には、「4.1.2 補正書による補正で対応可能な補正事項であるとして誤訳訂正書に含まれた補正事項が、実際には、翻訳文新規事項(補正書による補正で対応不可能な補正事項)であった場合の取扱い」という項目があります。
           当該項目では、翻訳文新規事項と判断された場合の取り扱いとして「出願人に対して、第194条第1項(書類の提出等)の規定に基づく審査官通知、電話等によって釈明を求める」とあり、ここで釈明できなければ、結果的に分割要件違反となるものと思料します。
           
           (3)まとめ
           したがって、石崎様に想定いただいたケースでは、「分割直前の翻訳文H1(A,B)」において「C」が脱落した経緯によって、分割後の誤訳訂正が認められるか否か、判断が分かれるものと思料します。

           ●原出願X1
           外国語書面G1(A,B,C)
           分割直前の翻訳文H1(A,B)
           ↑「C」が脱落した経緯が、補正によるものか、又は誤訳によるものかで判断が分かれる
           
           ●分割出願X2(特許査定後の分割)
           外国語書面G2(A,B,C)
           出願時の翻訳文H2(A,B)
           誤訳訂正後の翻訳文H2’ (A,B,C)

           なお、通常、外国語書面とその翻訳文とは、一対一に文脈に沿って適正な日本語に翻訳することが求められていることは言うまでもありません(審査基準「第Ⅷ部 外国語書面出願」)。

          参考:
          ・第 VII 部 第 2 章 外国語書面出願の審査
          https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/07_0200bm.pdf

          ・第Ⅷ部 外国語書面出願
          https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/kaitei/document/h26_kaisei_kaitei/09.pdf

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