【特許】欧州単一特許制度を時系列で解説します

目次

1.欧州単一特許制度とは

 EU加盟国は、現在、27ヶ国(令和4年10月時点)となっています。

 欧州単一特許制度とは、これらの加盟国のうち、スペイン、クロアチア、ポーランドを除いた加盟国について、単一効の特許を請求し、これが設定登録されることにより、従来の欧州特許の場合に必要とされていた各国での有効化(validation)と公用語への翻訳が不要となり、全ての加盟国において有効な特許を取得することができる制度のことです。

 ただし、現時点でUPC協定発効後にUPが有効となるのは、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポルトガル、スロベニア、スウェーデン、ドイツの17ヶ国となります。

 UPについても、出願から特許査定までは従来どおり、欧州特許庁(EPO)が行いますが、UPを取得するためには、特許査定から一ヶ月以内にEPOに対して、その申請(request for unitary effect)を行う必要があります。

 なお、申請のための手数料は不要です。

2.欧州単一特許制度のロードマップ

 下記に、欧州単一特許制度のロードマップを示していますので、参考としてください。

 UP/UPCのサンライズ期間は、2023年1月1日スタート予定でしたが、2023年3月1日スタート予定に変更されました。よって、UP/UPCの発効予定も、2023年6月1日に繰り下がっています

 

202212月中

 

 

●ドイツ批准書の寄託

(1)特許付与の意図通知(EPC Rule 71(3))に対して、欧州特許付与の決定(EPC 97 (1))の通知の延期申請が可能

(2)UP (Unitary Patent:統一特許)の早期申請可能

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2023年3月1

 

 

●サンライズ期間(3ヶ月)開始日

(1)オプトアウト期間(7年~14年)の開始を含む

(2)オプトアウトとは、UPCUnitary Patent Court:統一特許裁判所)の専属管轄を抜ける手続のこと

(3)オプトアウトは、UPCに訴訟が提起されていないことが条件とされるため、サンライズ期間におけるオプトアウトの選定が非常に重要

(4)オプトアウトは、UPを取得した後はこれを行えない

(5)オプトアウトは、UPCCMSCase Management System)から申請可能。CMSには電子ID認証(eIDAS)が必要となることに留意

(6)オプトアウト対象は、下記の①及び②

 ①.UPC協定発行「後」に発行された欧州特許

 ②.既に欧州特許が付与され、UPC協定加盟国で有効化されている各国の特許

(7)オプトアウト期間の終了後は、従来の欧州特許もUPC管轄となる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2023年6月1

 

 

UPC協定発効日

(1)サンライズ期間の終了日でもある

(2)UP申請は、欧州特許付与の決定(EPC 97 (1))の通知後、1ヶ月以内を期限とする

(3)UPでは、欧州特許の全翻訳が別途必要であり、具体的には下記のとおり

 ①.欧州特許庁での手続言語が英語だった場合には、任意の欧州公用語での全翻訳

 ②.欧州特許庁での手続言語がドイツ語又はフランス語だった場合には、英語での全翻訳

(4)(3)の全翻訳は、権利解釈に影響を与えない

 

 

 

 

 

3.欧州単一特許制度に対する実務的対応

(1)2022年11月3日現在、統一特許裁判所(UPC)での判例蓄積が無いため、当該裁判所でどのような判決や判断が示されるかは未知数です。そのため、現段階では、当該裁判所で特許権の有効性等を争うことはリスクが高いため、これを様子見するのが好ましいと考えられます。

(2)したがって、実務上は、重要特許又は全ての特許をオプトアウトすることにより、①.セントラルアタックのリスク回避、及び②.フォーラムショッピングのチャンス最大化を達成するのが好ましいです。
 なお、①.セントラルアタックとは、統一特許裁判所(UPC)での特許無効判決により、UPC協定加盟国での特許権の全てを失効することを意味します。
 また、②.フォーラムショッピングとは、欧州各国で、特許権に関する訴訟等で有利な判決を得られると見込まれる裁判所を選択する戦術を意味します。

(3)他方、欧州単一特許の利点もあり、例えば、欧州全体で特許権侵害が生じている場合において、それらの侵害に対する一括差止め、及び/又は損害賠償請求を行えることが挙げられます。
 上記しましたように、実務上は「様子見」が好ましいと思料しますが、既に欧州各国で訴訟係属している案件(オプトアウトできず将来的にUPCで扱われる案件)がありますから、それらの判例蓄積を待ち、状況に応じてUPCで権利行使することも検討するのも良いでしょう。
 なお、余談ですが、特許権侵害訴訟における特許権者の勝率が最も高い国はドイツであり、その中でもデュッセルドルフの裁判所が該当します。欧州全体の特許権侵害訴訟は、年間2000件程度あるところ、その25%程度がデュッセルドルフの裁判所で係属しています。

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