【特許】第4回 簡単に分かる拒絶理由の対処方法(審査官の指摘が不当な場合:新規性)
目次
1.前回のおさらい
簡単に分かる拒絶理由の対処方法シリーズは、初心者向けの拒絶理由通知の対処方法を示しています。
もちろん実務家の方も頭の整理として参照いただけますと嬉しいです。
さて、おさらいですが、第1回では、特許庁から通知される拒絶理由の解消において場合分け(パターン化)することで機械的に対処することができることを示しました。
第2回では、パターン化の最初のフローのうち、拒絶理由(事例)を当てはめるための処理用フローチャートの概論を示し、特に「(1-1).拒絶理由通知に特許性の示唆があるか確認」について具体的にお話ししました。
また、前回の第3回では、「(1-2).審査官の指摘の妥当性・失当性の確認」の概論をお話ししました。
パターン化とは、下記の(1)~(4)の過程を言います:
(1).拒絶理由を処理用フローチャートへ当てはめ
(2).処理用フローチャートに基づく拒絶理由解消の方針決定
(3).拒絶理由解消の方針に基づいた解消案の提案、検討、決定
(4).解消案に基づく補正案・意見書案の作成
また、拒絶理由の処理用フローチャートの概論とは、下記の(1-1)~(1-4)の過程を言います:
(1-1).拒絶理由通知に特許性の示唆があるか確認
(1-2).審査官の指摘の妥当性・失当性の確認
(1-3).審査官の指摘が失当ならば失当である旨を意見書で主張
(1-4).審査官の指摘が妥当ならば拒絶理由を解消し得る補正案等を検討
今回は、引き続き「(1-2).審査官の指摘の妥当性・失当性の確認」についての各論、すなわち、新規性の拒絶理由の妥当性判断について説明します。
まずは、特許法等の意味する「新規性」についてお話しします。
2.特許法の意味する新規性とは
特許権を取得するには、特許出願に係る発明に新規性(特許法第29条第1項各号)があることが必要とされます。
発明の新規性の有無は、この特許出願以前に公開された文献(先行技術文献)等おいて、当該発明が公衆に公開されているかどうかで判断されます。
例えば、下記の事例を見てみましょう。
●特許出願の特許請求の範囲
【請求項1】Aを含む発明X(Aのみ)
【請求項2】更にBを含む、請求項1に記載の発明X(A+B)
【請求項3】更にCを含む、請求項1又は2に記載の発明X(A+C又はA+B+C)
●先行技術文献(特許出願の出願日前のもの)
「この試作品Yは、Aから構成されている。…また、試作品Yは、更にBを追加することでより良い効果を発揮する」
上記の場合には、請求項1のAを含む発明Xは、先行技術文献Yで既に公開され、それに新規性が無いとみなされます。
また、請求項2の更にBを含む発明Xも、先行技術文献Yで既に公開され、それに新規性が無いとみなされます。
他方で請求項3の更にCを含む発明Xは、先行技術文献Yで既に公開されておらず、それに新規性が有るとみなされます。
このように、特許法の意味する新規性とは、発明の構成要件(上記のA、B、C)の組み合わせが一つの先行技術文献に公開されているか否かで判断されます。
なお、新規性については例外的に「内在同一」などの考え方もあるのですが、これは別記事にする予定です。
3.新規性の拒絶理由の妥当性判断
新規性に関する拒絶理由において、審査官は、ある請求項に開示されている構成要件の全てが、調査した一つの先行技術文献に開示されているから当該請求項には新規性が無い、というような指摘をします。
例えば、下記の例において審査官が「先行技術文献に基づいて、請求項1~3に係る発明には新規性が無い」と指摘したと仮定しましょう。
●特許出願の特許請求の範囲
【請求項1】Aを含む発明X(Aのみ)
【請求項2】更にBを含む、請求項1に記載の発明X(A+B)
【請求項3】更にCを含む、請求項1又は2に記載の発明X(A+C又はA+B+C)
●先行技術文献(特許出願の出願日前のもの)
「この試作品Yは、Aから構成されている。…また、試作品Yは、更にBを追加することでより良い効果を発揮する」
この指摘の妥当性の判断は、実際に当該請求項の構成要件と提示された先行技術文献とを比較した対比表を作成して行うのが好ましいです(慣れてきたら作成の必要は無くなります)。
下記に対比表の事例を示して説明します:
対比表 | |||
対象請求項 | 発明Xの構成要件 | 先行技術文献の構成要件 | 新規性の判断 |
請求項1 | A | A | 新規性無し |
請求項2 | B | B | 新規性無し |
請求項3 | C | (記載なし) | 新規性有り |
上記した対比表に基づいて判断すると、先行技術文献には構成要件「C」の記載が無く、したがって、構成要件「C」を追加で請求する請求項Cには、新規性があることが分かります。
してみると、請求項1及び2について新規性が無いことは妥当ですが、請求項3について新規性が無いとの審査官の指摘は失当と判断できます。
4.新規性の拒絶理由の指摘が不当・失当である場合の処理
(1)新規性の拒絶理由の指摘の「全て」が不当・失当である場合
新規性の拒絶理由の指摘の「全て」が不当・失当である場合には、請求項の修正(補正)等をする必要がありませんので、指摘が不当・失当である旨の意見書を作成して提出するだけで事足ります。
(2)新規性の拒絶理由の指摘の「一部」が不当・失当である場合
新規性の拒絶理由の指摘の「一部」が不当・失当である場合には、換言すれば、指摘の一部は妥当なため、請求項の補正が必要となります。
具体的には、指摘が妥当と判断した請求項を補正した補正書を準備し、①その補正の旨と、②その他の指摘は不当・失当である旨とを記載した意見書を作成して提出すれば事足ります。
下記に事例を示して説明します:
●補正前 | |
請求項 | 特徴 |
【請求項1】 | A |
【請求項2】 | A+B |
【請求項3】 | A+C又はA+B+C |
●補正後 | |
請求項 | 特徴 |
【請求項1】 | A+C |
【請求項2】 | A+B+C |
| (削除) |
上記の事例では、補正前の請求項1及び2に新規性が無い一方で請求項3には新規性が有ると判断していました。そこで、請求項3の登頂Cを請求項1に追加する補正を行うことで補正書を準備します(「●補正後」を参照)。
次に、意見書において、①上記補正した旨と、②請求項3に対する新規性違反の指摘は不当・失当である旨とを記載し、これらの補正書と意見書を特許庁に提出します。
5.今回のまとめ
今回は、審査官の指摘の分析の各論として新規性の拒絶理由の分析についてお話ししました。
新規性違反に関する審査官の指摘の妥当性を評価するには、慣れないうちは、対比表を作成すると好ましいことがお分かりいただけたかと思います。
また、評価の結果、審査官の指摘の「全て」又は「一部」が「不当・失当」である場合における、補正書や意見書の作成方法も説明しました。
次回は、審査官による新規性の拒絶理由の指摘の「全て」が「妥当」である場合の対処方法について、説明します。
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